赤ちゃんを授かるための努力を幸せなものにしたい(前編)|住吉 忍さん

2019.5.9

住吉忍妊活にまつわる漢方カウンセリングや薬剤販売など、女性のヘルスケアサポートを行う「ウィメンズ漢方」の代表を務める住吉忍さん。薬剤師として、妊娠を望む多くの女性の相談を受けたことや、自らが西洋医学と漢方を併用した不妊治療を体験したことが、現在の活動のきっかけになったといいます。どのような経験があったのか、お話しを伺いました。

高校生でも将来の自分の体を考えて欲しい

―住吉さんは、薬剤師でもありますね。漢方に注力するようになった経緯を教えてください。

住吉:実家が相談薬局(処方箋がなくても薬はもちろん、健康や介護などについて相談できる薬局)で、薬剤師の母が和漢(日本の漢方。中国の漢方は中医学と呼ばれ、使われる薬などが異なる)もかなり勉強していたんです。私が子供の頃に風邪を引いたり、試験で緊張してお腹が痛くなったりすると、母が漢方を煎じてくれていたので、漢方は身近な存在でした。

実は、母が仕事熱心で私は寂しい思いをして育ったこともあり、自分はケーキを焼いて子供の帰りを待っているような、専業主婦になりたかったんです。でも、母が患者さんにいろいろな話をして心もケアし、頼りにされている姿にどこか憧れていたのでしょうね。いつの間にか私も薬剤師になっていました(笑)。

―女性のヘルスケア、特に妊娠を希望する方のサポートをするようになったのは、なぜですか。

住吉:女性のヘルスケアという点では、私が高校生の時に摂食障害を経験したことがきっかけです。それまではおやつにファストフードのセットメニューを食べて、その後にとんかつを食べられるぐらいでしたが、摂食障害になってからは痩せて月経が止まってしまい、排卵が戻るのに苦労しました。その時は痩せることが自分の体にどんな影響を与えるか、想像も及びませんでした。今でも、体に気をつけている高校生は、あまりいないと感じています。20代の女性でも、考えている人は少ないのではないでしょうか。私が女性のヘルスケアのサポートをするようになったきっかけは、体の不調を放っておいたら危険ということを、私自身の経験から強く感じたからです。

また、不妊治療のサポートをするようになったのは、自分も治療を経験したからです。その時、体だけでなく気持ちの部分のサポートもとても必要と感じて、患者さんの相談にも乗っていたんです。それで、不妊に悩む方が口コミで集まってきてくださいました。当時は実家の薬局を手伝いながら不妊治療のサポートをしていたのですが、夫の転勤を機に独立しました。

育児の大変さから2人目不妊に

―住吉さんも不妊治療を経験されたのですね。どのように治療を始められたのですか。

住吉:私は2人目不妊だったんです。摂食障害で排卵が止まってからは、胃腸虚弱になってしまって。胃腸の調子を整える「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」という和漢の処方で体調を整えていました。その後結婚して第一子を自然妊娠したのですが、育児がとても大変でした。抱っこしたままじゃないと眠らない、ミルクでなくおっぱいじゃないと嫌という子だったのですが、夫も仕事が忙しくて平日は帰りが遅く、私1人で48時間不眠不休の耐久レースのようになってしまって。それでまた痩せてしまったんです。でも、私も育児と仕事をしていましたから、病院に行く余裕や自分の体調を気遣う時間がありませんでした。それでふと気が付いたら、出産してからずっと月経が止まったままで排卵がなかったんです。そのことがきっかけで、不妊治療を始めました。

やはり、自分の体がどのような状態になっているかは、西洋医学でないと分かりません。検査や内診ができるのが、西洋医学の良さだと思います。まずは、西洋医学で自分の状態を確認しようと考えました。

―治療の経過はどのようなものだったのでしょうか。

住吉:排卵誘発剤を使ったりしたのですが、なかなか結果が出ませんでした。私の場合は、排卵誘発剤を使っても、そもそも排卵できる体の状態になっていなかったので、再び桂枝加芍薬湯、「などを服用して体の状態を整えることから始めました。3ヶ月ぐらいかけて排卵が戻り、排卵誘発剤も併用して第二子を妊娠することができました。途中流産も経験し、不妊治療の開始から1年半ほどで妊娠することができました。病院の先生に頼ることも重要ですが、まずは自分の体の状態を気遣って、体調を整える必要もあると感じました。

―不妊治療は心のケアも必要とおっしゃいました。住吉さんは、治療中はどのようなお気持ちでしたか。

住吉:今は及び腰になっていると思いますが(笑)、結婚当初、夫は子どもを4人欲しいと言っていたんです。だから、内心で私はどうしようと思って。排卵がないということは、治療のスタートにも立てない、タイミング法も何もできないと思って、いつも夫に対して申し訳ない気持ちでいました。排卵が戻るかどうかも分かりませんから、不安もありましたね。既に子供は1人いたのでその子の存在に救われた部分はありましたが、だからこそ周りのコミュニティーに子供が多く、2人目不妊の悩みを相談できませんでした。 

気持ちを支えたのはパートナーと同じ悩みを持つ女性

―焦りや不安といった辛い感情を抱えていたのですね。どのように乗り越えたのでしょうか。

住吉:やはり辛いという気持ちは、妊娠するまで抱えていました。でも、当時は同じように悩んでいる方のSNSやブログを通じて、当事者同士で支え合っていました。それと、夫があっけらかんとした性格で、なるようになるだろうというスタンスで構えていてくれたのが、私には良かったと思います。夫が私と同じように落ち込んでいたら、私はさらに辛かったのではないでしょうか。でも、だからこそ「私の気持ちを分かってくれない」とネガティブに感じてしまうこともありましたが(笑)。放っておいてくれて助かるけれど、辛い部分は、気持ちを分かり合える当事者の方に助けてもらっていました。


インタビュー後編へ続く


<住吉 忍さん>

薬剤師。国際中医師。2016年、横浜で女性のヘルスケア、特に妊娠を希望する女性の漢方カウンセリングなどを得意とする薬店「ウィメンズ漢方」を設立、代表取締役社長に。神奈川県や都内の不妊治療クリニックで、漢方外来も担当し、「妊娠しやすい身体づくり」をサポートしている。

※国際中医師:中国政府の外郭団体が、中国の伝統的な治療法の専門家と認める資格